たった一度のこの体を使い切る

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ー教える立場になって自分が育った場所に戻るって、どんな感じですか?

十数年ぶりに戻ってきて思ったことは、子どもの様子が全然違うということ。僕が生活していた当時は、非行を理由に措置されてくる子どもが多かった。家出とか、窃盗とか、暴行ですね。一方、今は発達障害や知的障害、性の問題を抱えている子どもが多いです。発達障害、知的障害であると診断されているの子どもが全体の半分くらい。また、男子の3人に1人は性加害を理由に入所しています。性の問題を抱えている子どもの多くは、性的な被害経験があります。

こうした問題は、世間からは見えにくいものですよね。かつての問題行動といえば、「俺はお前らの言うことなんて聞かないぜ!」と言い捨ててワーッて暴れたり、バーンと外へ飛び出したりというものだった。それが、圧力をかけられてどんどん潜在化しているように思えます。

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ー複数の役割・視点を持ったしんさんは、社会的養護の現状をどう見ていますか?

6月に児童福祉法が改正されて、親が育てられない子どもは、「家庭と同様の養育環境」で育てなければならないという方針が示されました。全体として、施設から家庭的な環境へという流れがあります。

 

ーどういう環境だと「家庭と同様の養育環境」と言えるんですか?

形態としては、特別養子縁組や里親、あるいは里親型のファミリーホームのことを指しています。でも、こうした形態をとったからといって、必ずしも子どもにとって望ましい養育環境が提供できるとは限りません。大切なことは、子どもの養育ニーズは何か、どうすればそれを満たせるのかを考え、一人ひとりに合った育ちの場を提供することだと思います。

 

ーNPO法人Living in Peace代表の慎さんが、「施設にはたくさんの問題があるけれど、施設をなくせばいいというものではない。施設の持つ専門性は、代えがたい重要な要素だ」っておっしゃっていたんです。それを聞いて、すごく腑に落ちたのを覚えています。

養育環境を与える側は、「あなたはこうしたほうが幸せになれる」と、簡単に言えてしまう。一方で、当事者にとっては、「どこでどのように生きていくのか」を宣言することは、簡単ではありません。当事者は何を望んでいるのか。社会的養護を巣立った人は、自身の養育経験をどう評価しているのか。そういう声をきちんと残していく必要があると思っています。

 

さくらい:そうですよね。Bridge For Smileでの関わりのなかで、僕も、「施設でよかった」って子によく出会います。

 

小学校6年生のときに児童相談所の職員が、里親か施設かを選ばせてくれたんです。里親家庭での生活は4ヶ月で終わってしまったけど、「自分で決めたことだから」と、受け入れることができた。自分の課題にも向き合うことができ、児童自立支援施設へ移ることにも前向きでした。子ども自身がいろんな選択肢を知った上で、自ら選択できることが重要です。児童相談所は、その子どもが必要としているケアが施せる場所に置いてあげることが大事です。管理する視点ではなく、あくまでも子どもを育むという視点で措置がなされてほしい。

 

◼︎どうしたら たった一度のこの身体を使い切れるだろう

 

ー当事者、指導者、生活者、支援者…なぜこんなにも役割を抱えているんですか?

矢井田瞳の「マワルソラ」という歌に、「どうしたらたった一度のこの体を使い切れるだろう?」っていう歌詞があります。

 

ー無駄なく。

そう、余すことなく。このエビの唐揚げ(写真右手前)のように。

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ーなぜその言葉が響いたんですか?

「自分だからこそ○○ができた」と言える自分でいたいと思うんです。特別なことをしなくても人生は進んでいくけれども、それでいいのか?って。もっと自分を使いきれる。そう思っているんです。

 

ーそれ、すごくいいですね。
これからのしんさんの展望を教えてください。役割はまた増えていきますか?

 

将来的に、やりたいことは三つあります。

一つ目は施設・里親家庭で育った経験のある人を対象としたシェアハウスです。

施設や里親家庭を離れ、一人で生活を始めた後に、大きなクライシスに直面する人が少なくありません。住む場所さえ確保することができれば、それを乗り越える助けになると考えています。 シェアハウスには、様々な人に出入りしていただいて、住人が社会と繋がれる場所にしたいと考えています。

 

二つ目は、当事者研究です。

日本の社会的養護は、当事者の声が十分に制度設計に反映されているとは言えません。当事者は、自身の養育経験をどう評価しているのか。肯定的な意見も否定的な意見もバランスよく集めた上で、子どもたちにとって良好な養育環境はどのような要素から成り立っているのか、エビデンスを示し、現場に反映させたい。その前段として、年内にインタビューサイトを立ち上げる予定です。

 

三つめは、人材育成

養育者は、どうしても目の前の子どものことでいっぱいいっぱいになってしまいがちです。しかし、よりよい養育を行うためには、幅広い視野を持つことが大切だと思っています。子どもの権利条約や児童福祉法などの関連法やそれに基づく社会的養護のしくみは、子どもたちの処遇にどのような影響を与えているのか、といったタテの視点。学校、病院、警察、裁判所、児童相談所…それぞれの立場を踏まえた上でどのように連携するのか、といったヨコの視点。タテ・ヨコに視野を広げられる人材を育てたいと思っています。

 

3年前は違うことを考えていたから、また考えが変わるかもしれません。共通することは、世の中の光が当たらないところに光を当て、自ら光を放つようになる過程にコミットしていくということ。ここはぶれないですね。

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◼︎家族って?

 

ーしんさんにとって家族とはどういう概念ですか?

家族は、無条件に温かいもの。愛情という概念と近いと思います。家族的なつながりっていうのは、「うまくいっていようがいまいが関係ないよ」って、大らかに構えていられるもので、指導者や支援者としての関わりの中には見つけにくい、生活者ゆえの関係性です。生活者としての関わりを通して、そういう場面を増やしていきたいし、将来シェアハウスやファミリーホームをやるときにも、無条件で温かい気持ちを向け合えるような家族にしたいですね。

 

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撮影:さくらい

 

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