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おうち、てらす

産後の体と心を整える、その先に

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三鷹の朝。

 

急ぎ足で会社に向かう人々に逆行するように電車を降り、わたしが向かったのはマドレボニータの産後ケア教室。全4回コースの第3回目に潜入させていただきました。

 

参加者の方々の到着より一足先に訪れた会場は、ダンススタジオ。あまりに縁遠い空間で戸惑いを隠せないながらも、インストラクターの貫名友理さん(ゆりさん)の笑顔に緊張が和らぐ。

 

ゆりさんが赤いバランスボールをどんどん膨らませていくなか、一人、二人、と産後数ヶ月の女性たちがぞくぞくと到着しました。そのほとんどが赤ちゃん連れです。抱っこ紐やベビースリングで赤ちゃんを包み込み、おむつやミルクの入った大きな荷物を携えています。そっと赤ちゃんを降ろしながら次々荷解きをしていく様子に、赤ちゃんとの外出の大変さを思い知らされるのでした。

16507221_1436560793063100_887527918_nゆりさんの伸びやかな掛け声で、レッスンが始まります。

 

まずはバランスボールエクササイズ。産後の体に負担をかけることなく、出産でダメージを受けた体の回復を目的とした有酸素運動。赤ちゃんは寝かせたまま、あるいは抱っこしてバランスボールで弾みます。BGMのリズムに合わせて足を開いては閉じる。次は手の動きも加えて。私も実際に体験しましたが、これがなかなかハードなのです。

 

心地よい汗をかいた後は「シェアリング」と呼ばれるコミュニケーションを高めるワークを行います。一人で絵を描いた後は、2人組になって「人生」「仕事」「パートナーシップ」について話し、ペアのもうひとりが聞き役に徹して、相手の自己表現を受け止めます。最後は全体で、感じたことや気づいたことを分かち合う。とても穏やかな時間ですが、ひとりひとりが自分の人生に向き合い、思いを言葉にする真摯な姿に魅了されました。

 

まずは赤ちゃんに安全な、そして産後の身体に負担の少ない正しい抱っこの姿勢を確認します。マットの上にごろんと横になっている赤ちゃんもお腹がすいて、構ってほしくてぐずったり泣いたりした時は、その呼びかけにすぐに応えて抱っこしながら、エクササイズを行います。いつでもその場で授乳やおむつ替えができるようになっています。全員で赤ちゃんを見守りながらレッスンは行われています。母も赤ちゃんも安心して過ごせる空間が、そこにはありました。

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◆産後、自分が自分じゃないような感覚

 

ーゆりさん、前職は客室乗務員だったんですよね。

 

物心ついたときからずっと、客室乗務員になるのが夢だったんです。「なりたい」というか、「絶対なる」と思っていました。深夜便とか早朝便とか毎回様々で、それはもう体力勝負で、ハードなお仕事でした。でもその大変さ以上にお客様と接するのが楽しかった。やりがいに満ち溢れていて、これは天職だと確信していました。

 

ーそれが一転、今はマドレボニータのインストラクターに。どんなきっかけがあったんですか?

 

どこからだろう、ずっとつながってきた気がするんですけど。もともと、女性のキャリア形成にすごく興味を持っていて、妊娠中には専門的な知識を積みたいとキャリアカウンセラーの講座に通いました。やりがいとか「自分はこうありたい」という思いも大切にして働くことに関心があり、自分も実践したいという気持ちがありました。

 

ー女性のキャリアへの興味はいつから?

 

大学生の時に母から「何かやりたい、社会と繋がりを持ちたい」と言われた一言がキッカケですね。専業主婦でしたが地域活動や父の仕事の手伝いなどでいつも忙しくしていた母を見てきたので、「なぜ今そう思うのだろう」と女性のキャリア形成についての本など読み始めました。同時に、当時スタッフとして関わっていた高校生にキャリア教育の授業を届けるカタリバという団体で多様な生き方をしている学生や大人との出会いがあり、「自分のいいと思えるものを追求して生きる姿」が新鮮で、よりキャリア形成について興味を持ちました。

 

ご自身のお母さんの一言と、カタリバでの経験を通して、女性のキャリア形成を考えるようになったんですね。

 

1年前、はじめて出産を経験しました。夫とも望んだタイミングで授かることができて、愛おしくてたまらなかったです。その一方で、産後は体力が落ちて、自分の時間もなくなって、自分が自分じゃないような感覚に陥ったんです。

 

―自分が自分じゃないような、というと?

 

たとえば、「この本読みたいな。子どもが寝てから読もう」って思っても、予定通りに進むわけがなくて。泣いたら抱っこして、おっぱいあげて、オムツ変えて、お風呂入れて、夫が帰って来たらご飯を用意して、またおっぱいあげて…そして夜は子どもと一緒に寝てしまったり。やりたかったことが溜まり、また何もできなかった自分に落ち込むことがしばしばありました。

 

「今は母親なんだから我慢しなきゃいけない時期なんだ」って思っていました。これが「母の役割で当たり前」と思い込んでいたので、違和感を言葉にもできず抱え込んでしまって。

 

―それってつらいですね…。

 

もちろん子どもは本当に可愛いし、毎日の成長も楽しい。でも自分で気づかないうちに我慢が積み重なって、その反動が夫に向かってしまった。イライラが態度に出てしまったり、勉強していたキャリアカウンセラーのことを考える余裕もなく、毎日「今は自分のことは後回し」。そんな頃にマドレボニータに出会いました。

 

◆産後ケアで自分に向き合う

 

―教室に参加してみて、いかがでしたか?

 

「今、自分はどう生きたいんだろう?」と、自分に問うきっかけをもらいました。

 

その時は3年間の育休を取るつもりで申請も出していて、ゆっくり考えようかな〜と思っていたんです。エクササイズで体力を取り戻し、自分を主語にして話すシェアリングを通して、「子育てのせいにして全てを後回しにしている自分」に気づきました。改めて、10年後に子どもにどんな姿を見せたいかと考えたときに、「やっぱり今も働きたいな」って思ったんです。「子どものために自分の時間を犠牲にしなければならない」って思っていたけれど、そうじゃない。子どもも成長するけれど、自分も同じように年を取るんだから、「同じ時間、自分も大事にしないと」と思えるようになりました。

 

それに、「子育てをひとりで抱えこむということは、パートナーが子育てをする機会を奪っている」という、産後ケアの教室のインストラクターでマドレボニータ代表でもある吉岡マコ先生の言葉に大きな気づきがありました。もっと周りを頼って、委ねてもいいのかと。これは衝撃でした。

 

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―客室乗務員への復帰ではなく、インストラクターの道を選ばれたのは?

 

やりがいはあるし、本当に大好きな仕事だったけれど。より自分で感じた違和感に対して仕事として取り組みたいという思いがありました。マドレボニータのビジョンには、「母となった女性が本来持っている力を発揮する社会の実現」とあるのですが、わたしもこういう場を増やしたいと思ったんです。それが自分が考えていた女性のキャリア形成への課題意識にも繋がると思いました。

 

あと、マドレボニータでは、〈虐待〉と〈夫婦不和〉と〈産後うつ〉という3つの社会課題の解決を掲げているのですが、それが産後が起点となって起こっているということに、強く共感したんです。自分が母になり、他人事とは思えなくなった。

 

―そうと決めてからのアクションが早いですよね。

 

2015年の11月に一参加者としてマドレボニータの門を叩いて、12月からはインストラクターの養成コースに。「産後セルフケアインストラクター」の認定をいただいて、2016年11月にデビューしました。今回が、初めての4回コースのレッスンなんですよ。

 

―そうだったんですか! 今日、レッスンにおじゃまさせていただいて、ゆりさんの声がすごく通るので、ストレッチして目を閉じているとき、すーっと入ってくるのがすごく心地がよかったんです。とてもデビューしたてとは思えないです。

 

本当ですか! 声がハスキーなので、養成講座中ずっと「息もれてる!」っ言われていて、声出しの特訓をしていたので、そう言っていただけて嬉しいです!

 

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